気になる生前贈与

相続税の節税の1つの方法として、死亡したときの相続財産を少なくする目的をもって、生きているうちに子や孫に財産を贈与することがあります。これを(生前)贈与といいます。贈与と相続は同時に考える必要がありますが、今回は贈与税について書きたいと思います。

◎贈与には、暦年贈与と相続時精算課税があります。

◆暦年贈与とは?

 毎年1/1から12/31までの1年間にもらった財産の合計額から、基礎控除額の110万円を差し引いた残額に対して、贈与税がかかります。したがって、1年間にもらった財産の合計額が110万円以下なら贈与税はかかりません。(この場合、贈与税の申告は不要です)。110万円を超えると、もらった財産の金額に応じて、10%~55%の税率で贈与税がかかります。

◆相続時精算課税制度とは?

 相続時精算課税制度を選択すると、贈与者ごとにもらった財産の合計額から特別控除額の2,500万円を差し引いた残額に対して、贈与税がかかります。60歳以上の親や祖父母から18歳以上(注意:令和4年4月1日以後、成人年齢の引き下げの改正に伴い、20歳から18歳に引き下げられました)の子や孫に対する贈与に限ります。

 その名の通り、相続精算して課税する制度で、この制度を利用してもらった財産はすべて、贈与者が亡くなったときに、相続財産に持ち戻しをし、相続税額を計算します。

◎暦年贈与か相続時精算課税か?

相続時精算課税のメリットデメリットとしては、以下のものが考えられます。

◆メリット

 ・2,500万円まで無税で贈与できる

 ・2,500万円を超えた部分についても、贈与税率20%で贈与できる

(金額によっては暦年贈与よりも税率が低い)

◆デメリット

 ・申告の手間がかかる(納税額がないときでも、申告が必要)

・相続時精算課税制度を一度選択すると、やめることができない

・選択後は、暦年贈与(1年で110万円の非課税枠)が使えなくなる

(注意:別の贈与者からの贈与には利用可)

 ・相続時精算課税制度でもらった財産は、相続の際、すべて相続税の課税対象となり、贈与のときには無税でも相続税を納める可能性がある

 ・相続人でない孫が相続時精算課税制度を利用した場合、相続税の納税義務者となり、相続税額を2割加算で納めることとなる

◎相続時精算課税のメリットが分かる例を見てみましょう

 <例>令和4年 父から子へ2,500万円贈与 

 ①暦年贈与

 (2,500万円-110万円)×50%-250万円=945万円

 ②相続時精算課税

  2,500万円-2,500万円=0 ∴無税

 暦年贈与だと945万円の贈与税を支払う必要がありますが、相続時精算課税だと贈与税は0円です。2,500万円の財産を、ただでもらうことができてしまうのはすごいですね。

◎相続か贈与か?

相続に比べ、贈与のメリットデメリットとしては、以下のものが考えられます。

◆メリット

 ・相続時の財産を減らして、相続税を節税することができる

 ・生きている間に、渡したい人に渡したい時期に、財産を渡すことができる

 ・相続人でない人(孫など)にも贈与することができる

◆デメリット

 ・小規模宅地等の特例が利用できない

 ・不動産を贈与した場合、相続よりも贈与の方が、不動産取得税や登録免許税の負担が大きい

 ・相続発生の前3年以内に贈与(暦年贈与)された財産は、相続税の課税対象となる

 ・贈与(相続時精算課税含む)でもらった財産は、相続発生時に金銭で相続税を納めなければならない為、不動産などしかない場合、納付が困難

◎相続時精算課税制度 おススメの財産は?

 相続時精算課税制度=必ず節税とは限りません!

①将来、値上がりが見込まれる財産 おススメ!

 相続時精算課税制度で贈与した財産は、相続の発生時、相続財産として課税されますが、贈与をした時点の価額により持ち戻すので、将来値上がりが確実視される土地、有価証券などであれば、適しています。

②賃貸不動産 おススメ!

賃貸不動産や有価証券など、家賃収入や配当など時の経過に伴って収益が得られる財産は、贈与せず相続まで持ち続けたときに比べて、収益の分だけ節税になります。

◎まとめ

 贈与か相続か、財産の状況をよく見て判断する必要があります。また相続時精算課税制度の「2,500万円まで」無税はとても魅力的ですが、一度選択したらやめることができないので、注意が必要です。なお、相続税の基礎控除は、3,000万円+600万円×法定相続人の数です。生前贈与と相続財産の合計額が基礎控除以内ならば、相続税はかかりません。  近年、「相続税と贈与税が一体化される」、「暦年課税制度がなくなる」「相続財産に持ち戻す期間が現在の過去3年から長くなる」といった噂も出ています。令和4年度の税制改正では、この点については見送られましたが、今後の動向に注視したいものです。