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残業代の基礎知識

現在、ダラダラと残業をされて残業代を請求されている企業様も少なくないようです。残業代を請求される前に打つべき方法は多くあります。

また、残業代を請求されてしまった企業様も事後として打つべき方法はあります。従業員や、辞めた従業員に対して諦めず真摯に対応していきましょう。

ここでは、残業代の基礎知識について解説します。

未払い残業代問題とは

今、未払い残業代問題が増えています。

ここ最近、特に中小企業のお客様より、未払い残業代を請求されたという相談を受けています。増えているのには、理由があります。

ここでは、「未払い残業代問題」についてと、なぜ増えているのかについて解説します。

(1)未払い残業代問題

多くの会社では、人事労務担当者が社内ルールに基づいて各社員の労働時間を厳格に管理しているため、「未払い残業代」はないと思っています。しかし残念ながら、多かれ少なかれほとんどの企業に「未払い残業代」は存在します。

未払い残業代がほとんどの会社に存在する原因としては、労働基準法で定める「労働時間」の意義について、会社が誤った認識をしていることから発生しています。

現代では、「年俸制」などの賃金体系も主流になりつつありますが、労働基準法では、労働の成果に対して賃金が支払われるのではなく、労働時間に応じての賃金支払いが原則とされています。

たとえば、基本給25万円の従業員が、毎日8時から18時まで1日あたり9時間の労働時間(法定労働では8時間であるため、1時間の残業)をしていたとします。

※休憩1時間とした場合、その場合の残業代はおおよそ、

1日あたり1,800円

1ヶ月あたり4.5万円

1年あたり54万円

の残業代が発生してしまいます。これはあくまでも1人に対しての残業代ですから、従業員が100名いた場合は、1年間だけで5,000万円の未払い残業代があるという計算になります。

会社として、悪意がなくても、少しの誤解が大きな金額を請求されてしまうということに成りかねないのです。

労働基準監督署からの是正勧告などで「未払い残業代」を一時期に支払う必要に迫られた場合、会社の業績やキャッシュフローに与える影響は、大きいのです。

(2)増加している理由

今まで未払い残業代がどの会社もなかったのかというとそうではありません。多くの会社が未払い残業代を抱えていました。

ただ、従業員から指摘されたり、訴訟に発展したりすることが今まではありませんでした。では、なぜ今になって未払い残業代問題が話題に上がっているのでしょうか。

大きなひとつの原因に法律事務所の存在があります。これはつまり労働者側に立つ法律事務所があるということです。消費者金融に対する過払い金請求を中心にビジネスを行っていた法律事務所のホームページや広告などは、最近「未払い残業代を請求します」などと謳われています。

過払い金請求と未払い残業代請求はかなり構造が似ています。

過払い金請求は、初期費用無料で消費者金融から過払いとして戻ってきたお金の●●%を報酬としてもらうという形でビジネスを行っていました。

未払い残業代の請求も、初期費用は無料で会社側から未払い残業代を請求して戻ってきたお金の●●%を報酬としてもらうという形でビジネスを行えます。

また、2020年4月以降は、賃金に関する時効が2年から5年(当面は3年)に延長されました。時効が延長されたという事は、さらに長い期間の未払い残業代を請求できるようになるということです。現時点でも従来の1.5倍、正式に時効が5年となれば、従来の2.5倍の額を請求することが可能になります。当然、その分の報酬が増えます。そうなれば、参入する法律事務所も増えてくることが考えられます。

また、現在は、転職が当たり前の時代となりました。そうなってくると、転職の際に退職する会社から、未払い残業代を回収しようとする方が出てきて、増加していることが考えられます。

サービス残業とは

「サービス残業は本人の能力の低さに他ならない!俺なら時間内で仕事を終わることができる!」

「俺が若い頃は自分の修行のために文句一つ言わずにがむしゃらに仕事をした!」

サービス残業と聞くと上記のように強く憤慨される社長もいらっしゃると思います。おっしゃる通りだと思います。でも、法律、従業員の意識、社会環境など、今はもう昔とは何もかもが変わってしまったのです。

ルールが変わってしまったのです。その変わってしまったルールによって、そのルールを知らないばかりに、社長が今度は損をするケースが出てきているのです。

サービス残業とは

労働基準法で定められた法定労働時間[1日につき8時間、1週につき40時間]を超えて働いた場合や法定休日に働いた場合に、その時間に応じた残業代(割増賃金)を労働者に支払われないケースのことです。

労働基準法32条に、以下のような条文があります。『原則、法定労働時間を超えて働かせてはならないし、 法定休日に働かせてはならない。』

ただし、次の三つの場合は残業を認めることになっています。

(1)災害などの非常事由による臨時の必要がある場合

(2)公務のために臨時に必要のある場合

(3)労使協定による場合(36協定のことです。)

割増賃金とは

改正労働基準法により、1ヶ月につき法定労働時間を60時間超えて労働させた場合、その超えた時間の労働に対する割増率が50%以上に設定されることになりました。

つまり、法定割増賃金率が25%から50%へ引き上げられます。現行と改正後の比較を以下に示します。

36協定について

労使協定のひとつで、サブロク協定と読みます。労働基準法第36条にあたることからこのような名称で呼ばれています。労働基準法の基本的なルールとして以下の2つがあります。

  • 1.休憩時間を除き一週間について週40時間を超えて、労働させてはならない
  • 2.一週間の各日については、休憩時間を除き一日について8時間を超えて、労働させてはならない

しかし実際には、このルールの通りにはいかないのが現状です。そこでルールを超えて働かせることの出来る例外的な措置が作られています。そのうちの一つが36協定なのです。

36協定を届出ることにより法定労働時間及び変形労働時間制による労働時間を延長することが可能になり、法定休日に労働をさせることも可能になります。

(1)36協定の効力について

36協定(サブロク協定)にはどのような効力があるのかと言うと、会社側は、サブロク協定を定めることにより、労働基準法(第32条・第40条)に書かれている「労働時間の制限」や「休日の定め」にかかわらず、サブロク協定の範囲内ならば、法律の制限を越えて労働をさせても労働基準法には違反しない、という効力を持っています。

ただし、違反しないという効力だけですので、労働者に時間外労働などをさせるには、別途労働契約や就業規則の定めなどが必要です。

また、効力の及ぶ範囲についてですが、協定の中に対象となる労働者に制限がある場合には、その協定の効力の及ばない労働者には時間外労働や休日労働を命じることは出来ません。また、労働者もその命令を拒否出来ます。

(2)特別条項

36協定で定めた限度時間を超えて時間外労働を行わなければならない特別の事情が生じた場合には、一定の条件の下にさらに時間外労働を延長するという条項付の36協定を締結することができます。

ただしこれには次のような厳しい条件がつきます。

1「特別の事情」は臨時的なものに限るものとする。

「臨時的なもの」とは一時的または突発的に時間外労働を行わせる必要があるものであり、全体として1年の半分を超えないことが見込まれるものであって具体的な理由を挙げずに単に「業務の都合上必要なとき」とか「業務上やむを得ないとき」など恒常的な長時間労働を招くおそれのあるものはこれには該当しません。

2 特別条項付協定には原則となる限度時間を超えて特別延長時間まで労働時間を延長できる回数を協定するものとして取扱い、回数は1年のうち半分を超えないものとする。

3「特別な事情」はできる限り詳細に協定し、届出るものとする。

4提出された協定に回数の定めがない場合は「特別の事情」が「臨時的なもの」であることが協定上明らかである場合を除き、限度基準に適合しないものとして必要な助言及び指導の対象となる。

具体的にはこの様な文言が一般的です。

「時間外労働は1か月45時間とあるが、納期が集中し生産が間に合わないときは労使の協議を経て1か月75時間まで延長することができる。延長回数は1年に6回以内とする。」

特別条項によってさらに延長する時間数には100時間未満という制限があり、そこまでは協定することができますが、2~6ヶ月の時間数が80時間以内とするというルールもあるので、実際には80時間を超える延長時間は協定しない方がよいでしょう。

まず、労働安全衛生法の定めにより、週40時間を超える労働が1か月当たり80時間を超え、かつ疲労の蓄積が認められるときは労働者の申出を受けて、医師による面接指導を行わなければなりません。

この条項を根拠に80時間を超える特別条項付の36協定を届け出た会社に対して労働基準監督署は医師の面接指導を必ず行うように指導します。

また「名ばかり管理職」の裁判例に記したとおり、万一従業員が倒れた場合に平均で1か月当たり80時間以上の時間外労働をさせていた場合にはほぼ自動的に業務上災害と認定され、従業員を安全に働かせる義務(安全配慮義務)に違反するとして数千万円から1億円を超える損害賠償請求を起こされる危険性をはらんでいます。

法定外労働について

(1)法定労働時間

労働基準法で定められている、労働時間の上限のことです。つまり法定労働時間とは、40時間/1週間、8時間/1日になります。

[根拠となる法律]

32条1項 →使用者は労働者に休憩時間を除き1週間について40時間を超えて労働させてはならない

32条2項 →休憩時間を除き1日について8時間を超えて労働させてはならない

なお、特例措置として、商業、保健衛生業(保育所を含む)、接客娯楽業などで、労働者が常時10人未満の事業所は、1週間について44時間と定められています。

また労働時間とは、「使用者の指揮監督下にある時間」を言い、始業時から終業時までの拘束時間から、休憩時間を除いた時間になります。さらに、実際に業務に従事していない作業の準備時間、作業後の後始末時間や昼休みの電話番や来客対応の時間も労働時間になります。

(2)法定労働時間の例外

法定労働時間の例外として次の三種類があります

イ)変形労働時間制

ロ)災害等による臨時の必要がある場合の時間外労働・休日労働

ハ)三六協定による時間外労働・休日労働

(3)変形労働時間制

毎週又は毎日の所定労働時間を、固定した労働時間とせず、一定期間内の総労働時間の枠内で(もちろん法定の範囲内に限られます)、1日や1週、1か月の労働時間に長短の変化を持たせるものです。事業所運営の都合により実施されることが多い制度ですが、労働時間の短縮のための採用も多くなっています。

なお、一定の期間内の総労働時間が法定の枠に収まっていれば、割増賃金の支払は不要です。

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