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民法改正について

2020年03月06日

2019年の4月1日から、大企業はいわゆる同一労働同一賃金を実現していくために、パートタイム・有期雇用労働法が施行されました。また、中小企業は昨年から施行されている時間外労働の上限規制の猶予がなくなり、現在の大企業と同じ取り扱いが始まります。その一方で、同時期に改正民法が施行されます。今回は、民法改正の影響についてとりあげます。

 

  1. 民法改正の概要

まず、今回の民法改正については、大きく分けての二つ改正を行っています。

二つの改正

  1. 約120年間の社会経済の変化への対応を図るため、実質的にルールを変更する
  2. 現在の裁判や取引の実務で通用している基本的なルールを法律の条文上も明確にし、読み取りやすくする

 

①の変更については、下記のように、大まかに4つの改正が行われています。

  1. 保証人の保護に関する改正
  2. 約款(定型約款)を用いた取引に関する改正
  3. 法定利率に関する改正
  4. 消滅時効に関する改正

また②の変更については、意思能力に関するルールと賃貸借に関するルールが改正されています。例えば、認知症などにより意思能力(判断能力)がない方がした契約などが無効になることや、敷金や原状回復に関するルールが現行の法条文には記載されていないため、記載されることになりました。

法務省のHPでは、改正のさらに詳しい内容や、今回の改正に関係した漫画などの掲載を行っております。ご興味のある方は、「法務省 民法改正」で検索してみて下さい。

  1. 人事・労務分野への影響

それでは、これらの民法の改正は、人事労務分野でどのような影響があるのでしょうか。まず、上記(ア)保証人の保護に関する改正の関係です。

新しく人を雇い入れるときには、雇用契約書や誓約書、通勤経路図など、様々な書類を出してもらうことと思いますが「身元保証書」を取られている会社も多いのではないでしょうか。ほとんどの身元保証書の内容は、保証期間に本人が起こした損害に対する請求額について、本人が払えない場合に保証人にも請求できるといったものです。こういった保証金額や内容が特定されていない契約を「根保証契約」と呼びます。さらに、身元保証の保証人は親族の方、つまり個人の方の場合がほとんどです。こういった「個人」の「根保証契約」については、保証人の保護を手厚くするべきということで、今回の改正でルールが加わり「極度額」のない契約は無効とされることが決まりました。

極度額とは、保証人が支払の責任を負う上限金額を指します。例えば、極度額を1,000万円として身元保証契約をした保証人(親族の方など)は、たとえ本人が1億円の損害賠償請求をされて、支払い能力がないとなっても、1,000万円までしか保証しなくても良いということです。

現在、使用されている身元保証書について、この極度額が定められていない場合、そのままで4月1日以降に身元保証書を取ってしまうと、いざという時に身元保証書自体が無効になる可能性がありますので、ご注意ください。

 

次に、上記(エ)消滅時効に関する改正の関係です。

消滅時効とは、一般的に「時効」と呼ばれるもののことで、債権者が一定期間権利を行使しないことによって債権が消滅するという制度です。例えば、お金を貸して10年以上、返金の請求などをしなかった場合は、時効によって、貸したお金を返してもらう権利がなくなります。

これまで民法上では、消滅時効は原則的に10年であるとしつつ、例外的に2年や3年などの様々なパターンを設けていましたが、今回の改正で、消滅時効期間について、①権利を行使できることを知ってから5年 ②権利が発生してから10年 のどちらか早い方で時効が完成する(一部例外あり)と変更され、消滅時効期間の統一が図られました。つまり、後から権利があることを知る様な特殊なケースを除けば、原則的に5年で時効になるという、比較的シンプルな制度になりました。

この改正によって問題になってくるのが賃金債権です。労働基準法上には、給与などの賃金に関する債権の消滅時効期間は2年と規定されています。民法が5年に統一するのだから、労働基準法もこちらに合わせるべきだと議論が起こり、厚生労働省の労働政策審議会分科会で審議が続けられてきました。そして、昨年12月24日に、賃金債権も5年に延長するが、当面は3年とする案が示され、同月27日に労使の代表が合意しました。これにより、民法改正に合わせて今年の4月より、賃金債権の消滅時効期間を当面は3年とする方向で動いています。なお、年次有給休暇の消滅時効期間も5年に延びるのではないかと言われていましたが、2年のままということで議論がまとまっています。

 

  1. まとめ

今回の民法改正で最も影響が大きいのは、賃金債権の延長だと言えます。今までは2年前までの賃金しか請求できなかったものが、3年までさかのぼることができることになり、単純計算で1.5倍の金額を請求できるようになります。そのため、賃金債権に関する争い、具体的には未払い残業代などの請求が増えてくると思われます。4月から改正・施行されるとすると、この4月からの賃金債権が対象になると考えられるため、現状で賃金の支払い方に問題がある場合は、早急に対応していく必要があります。賃金について不安があるということでしたら、各担当者にご相談下さい。